古詩十九首 ( 19之4首)(19之5首)(19之6)(十九の7)
 (Ⅱ)   (Ⅰ))              (19首の8)(19首の8)(19首の9)(19首の10)
    古詩十九首   其之四  
        (今日の良宴会)
    今日良宴会。    今日の良宴会
    歓楽難具陳。    歓楽は具に陳べ難し
    弾筝奮逸響。    筝を弾いて逸響を奮へば
    新声妙入神.。    新声 妙えなること神に入る
    令徳唱高言。    令徳 高言を唱へば
    識曲聴其真。    曲を識るもの其の真を聴く
    斉心同所願。    心を斉しくして願う所を同じくすれども
    含意倶未申。    含意 倶に未だ申べず
    人生寄一世。    人生 一世に寄せること
    奄忽若?塵。    奄忽として?塵の若し
    何不策高足。    何ぞ高足に策ちて
    先拠要路津。    先づ要路の津に拠らずして
    無為守窮賎。    無為にして窮賎を守り
    轗軻長苦心。    轗軻 長しえに苦心する

=逸響:;優れた響き。
     妙入神;;霊妙なる神秘性を感じる域にはいること。又は怪しく不思議な程,上手なこと。
     令徳;;善良な人柄。人格。
     高言;;優れた歌詞。
     奄忽;;忽ち見えなくなること。
     ?塵;;風に翻る塵。
     高足;;足の速い馬,転じて,才能を言う。
     要路津;;要路は権力者。大切な場所(政治上の地位))
        津;;立場上優位な場所。地位,此こでは,出世上の利用となるひと,
     轗軻;;車が行き悩む事,物事のうまくいかないさま。転じて,不遇な事。

         古詩十九首  其之五 
          西北有高楼
     西北有高楼。   西北に高楼有り
     上與浮雲斉。   上は浮雲と斉し
     交疏結綺窓。   交疏 綺を結ぶ窓
     阿閣三重階。   阿閣 三重の階
     上有弦歌声.。  上に弦歌の声あり
     音響一何悲。   音響 一に何ぞ悲しき
     誰能為此局。   誰が能く此の局を為す
     無乃杞梁妻。   無乃杞梁の妻ならんか
     清商随風発。   清商 風に随って発し
     中曲正徘徊。   中曲にいて正に徘徊す
     一弾再三歎。   一たび弾じて再三歎く
     慷慨有余哀。   慷慨して 余哀有り
     不惜歌者苦。   歌う者の苦しみを惜しまず
     但傷知音稀。   但だ知音の稀なるを傷む
     願為双鳴鶴。   願はくは双鳴の鶴と為りて
     奮翅起高飛。   翅を奮いて起って高飛せんことを

     交疏;;格子窓。
     阿閣;;四方屋根があり,吾妻や風の高殿
     無乃:推量の強い言い方。「むしろ」と訓ずる
     杞梁妻::斉の国に杞梁殖の妻が,夫の戦死を悲しみ城下で哭いていた。7日のち城壁が崩れ為に,その父と夫と子を失い悲しみを琴を奏でて歌った。歌い終わると河に身を投じて死んだ。(列女伝)
     清商;;宮・商・角・微・羽。の五音の第2音,澄んだ音調で秋のもの悲しい声調。
     一弾再三;;感動の強い状態。

        古詩十九首 其之六   渉江菜芙蓉 (江を渉りて芙蓉を菜る)
     渉江菜芙蓉。    江を渉りて芙蓉を菜る
     蘭澤多芳草。    蘭澤に芳草 多し
     菜之欲遣誰。    之を菜って誰にか遣らんかと欲す
     所思在遠道。    思う所は遠き道に在り
     還顧望旧郷。    還た顧みて旧郷を望めば
     長路漫浩浩。    長路 漫といて浩浩たり
     同心而離居。    同心 而も離れ居すれば
     憂傷以終老。    憂い傷みて以って終いに老いん
語釈
     還顧::身を廻らし還り見る

          古詩十九首  其之七
      

      明月皎夜光。   明月 皎夜光皎たり
      促織鳴東壁。   促織 東壁に鳴く
      玉衡指孟冬。   玉衡 孟冬を指し
      衆星何歴歴。   衆星 何ぞ歴歴たる
      白露霑野草。   白露 霑野草を霑おし
      時節忽復易。   時節 忽まち復た易はる
      秋蝉鳴樹間。   秋蝉 樹間に鳴き
      玄鳥逝安適。   玄鳥 逝りて安くにか適なう
      昔我同門友。   昔し我れ 同門の友
      高挙振六翮。   高く挙がり六翮を振るう
      不念携手良。   手を携へること良と念はず
      棄我如遺跡。   我を棄てること遺跡の如し
      南箕北有斗。   南のかた箕 北には斗あり
      良無磐石固。   良に磐石の固とより無くんば
      虚名復何益。   虚名 復た何ぞ益せん
語釈;;
      夜光::月。 皎::白い,さま。
      促織(ソクショク)= こうろぎ,
      玉衡:: 北斗星の柄の部分に当たる所の第五星。
      指孟冬;;孟冬は冬の初め,北斗星の柄の先が指す方向が冬の孟(始め)に当たっている      漢の高祖が十月を年の初めとしたので,初秋七月が冬の孟めになる。
      玄鳥;;燕のこと。
      六翮::翼の突端に有る,利き羽根。羽根が六本ある。
      遺跡;;星の名,彦星のこと。  
詩意=秋の夜空を仰ぎ,立身出世した友に比べ,自分をかえり見て憂い嘆く詩歌である。詩中の北斗星,箕,牽牛などの星に,名が有り,実がないと言う例えである。古来,中国文学は「比喩」を以って表現する。中国文学が比喩の文学たる由縁が此処に奈何なく表現されている。又,詩中に「対句」を以って書く。読む。核心は此処にある。

          古詩十九首  其之八

      冉冉孤竹生。    冉冉として孤竹生じ
      結根泰山阿。    根を泰山の阿に結ぶ
      與君為新婚。    君と為新婚を為すは
      兎糸附女蘿。    兎糸は女蘿に附くなり
      兎糸生有時。    兎糸は生ずる時に有り
      夫婦会有宜。    夫婦は会うに宜有り
      千里遠結婚。    千里 遠く婚を結び
      悠々隔山陂。    悠々として山陂を隔つ
      思君令人老.。    君を思えば人をして老い令む
      軒車何来遅。    軒車 何ぞ来たること遅き
      傷彼蕙蘭花。    傷むらくは彼の蕙蘭の花
      含英揚光輝。    英を含みて光輝を揚げ
      過時而不采。    時を過ぐれども而も采らず
      将随秋草萎。    将に秋草の萎むに随はんとするを
      君亮執高節。    君亮に高節を執らば
      賎妾亦何為。    賎妾 亦た何かを為さん
語釈::
     冉冉::だんだんと。柔らかに。すくすくと。伸びる。
     阿:山の隈。曲がり入り込んだ処。
     泰山;中国五岳の第一の山。中国の信仰上の五つの霊山。泰山。崋山。恒山。崇山。衡山。
     兎糸::ねなしかずら。蔓草の一種。
     女蘿;;ひかげのかつら。
     有宜::適材適所を得ることが大事。
     山陂::山の阪道。
     軒車;;大夫の乗る車。(車の柄が上方に反り上がって屋根がある。)
     含英::はなぶさの花が咲き出す情態。
     亮::まことに。
     高節::節を曲げない。操が高く心が動じない。節が高い。
     賎妾:(女子の謙遜した自称)  
     何為::何をすべきか。何もしないで,とき往く過ぎるを待つ。
詩意=
     新婚に期待する若き女性の意が汲み取れる。兎糸,女蘿ともに女性が夫に対しての情愛が含まれる。心情の言葉。蘭花が顧えりみられず秋の霜に枯れる。中国一流の比喩。此の詩で女性が積極的なのは,「女性の老いの速さを畏れる」意と解釈するむきもある。


          古詩十九首  其之九
          庭中有奇樹  (庭中に奇樹あり)      

      庭中有奇樹。   庭中に奇樹有り
      緑葉発華滋。   緑葉 華を発くこと滋し
      攀條折其栄。   條を攀じて其の栄を折る
      将以遺所思。   将に以って思う所に遺らんとす
      馨香盈懐袖。   馨香は懐袖に盈つれども
      路遠莫致之。   路遠くして之を致す莫し
      此物何足貴。   此の物 何ぞ貴ぶに足らんや
      但感別経時。   但だ別れて時を経たるを感ずるのみ
語釈
   奇樹:めじらしい樹。
   馨香:かんばしい香。
   懐袖:ふところと袖。
   致之;さsげる。手元に届ける。
詩意=友人の間の思慕の情,又は別れて久しい人を思う詩。

            古詩十九首   其の十
            迢迢牽牛星

       迢迢牽牛星。   迢迢たる牽牛星
       皎皎河漢女。   皎皎たる河漢の女
       繊繊擢素手。   繊繊として素手を擢んで
       札札弄機杼。   札札として機杼を弄す
       終日不成章。   終日 章を成さず
       泣涕零如雨。   泣涕 零ちて雨の如し
       河漢清且浅。   河漢 清くして且つ浅く
       相去復幾許。   相去ること復た幾許ぞ
       盈盈一水間。   盈盈たり一水の間
       眽眽不得語。   眽眽として語ろことを得ず
語訳。
    迢迢:遠くはるか。
    河漢女::織女星のこと。
    章;紋様
    盈盈:水の満ちるさま。
    眽眽:相い視る状態
詩意。
    七夕の星会いの物語を借用して,夫に分かれて悲しむ女の心情を述べたもの。

   07/01/2008     石 九鼎